はじめに:なぜ「算数」の学び直しが重要なのか?
東大文系数学と聞くと、多くの人が高校数学の難解な問題を思い浮かべるでしょう。もちろん、それは間違いではありません。しかし、その土台には、小学校で学んだ「算数」の深い理解が不可欠です。特に、文章題や図形問題で試される「論理的に思考し、情報を整理し、立式する力」は、算数で養われる核心的な能力です。
このアプリケーションは、あなたが既に得意としている分野以外の、しかし中学・高校数学で決定的に重要となる算数の分野に焦点を当てています。「数の性質」「場合の数」「特殊算」「図形の探求」「規則性」の5つのテーマを通して、忘れかけていた算数の考え方を呼び覚まし、東大数学に立ち向かうための強固な土台を再構築することを目指します。各セクションのインタラクティブなツールや問題を解きながら、算数の面白さと奥深さを再発見してください。
1. 数の性質:整数の世界を探る
数の性質、特に約数、倍数、素数といった概念は、高校数学の「整数問題」で直接的に問われる最重要分野です。一見単純に見えますが、その組み合わせは無限のバリエーションを生み出します。ここでしっかり基礎を固めることが、整数問題を得点源にするための第一歩です。
重要公式と例題
+正の約数の個数
自然数 \(N\) が素因数分解され、$N = p^a \cdot q^b \cdot r^c \cdots$ と表されるとき、 \(N\) の正の約数の個数は次の式で求められる。
\((a+1)(b+1)(c+1)\cdots\)
例題
180の正の約数の個数を求めよ。
解法
1. 180を素因数分解する。
\(180 = 2 \times 90 = 2 \times 2 \times 45 = 2^2 \times 3 \times 15 = 2^2 \times 3^2
\times 5^1\)
2. 指数にそれぞれ1を足して掛け合わせる。
\((2+1) \times (2+1) \times (1+1) = 3 \times 3 \times 2 = 18\)
答え: 18個
インタラクティブ素因数分解
2以上の整数を入力して、素因数分解のプロセスを視覚的に確認しよう。
ユークリッドの互除法 ビジュアライザー
2つの整数を入力して、最大公約数(GCD)を求める過程を見てみよう。
2. 場合の数:論理的に数え上げる
「何通りあるか?」を数え上げる「場合の数」は、高校数学の「場合の数と確率」に直結します。ここで重要なのは、公式を暗記することではなく、「漏れなく、重複なく」数え上げるための論理的な思考プロセスです。順列(P)と組み合わせ(C)の違いを明確に理解することが鍵となります。
重要公式と例題
+和の法則・積の法則
和の法則: 同時には起こらない2つの事柄A, Bについて、Aの起こり方が $m$ 通り、Bの起こり方が $n$ 通りあるとき、AまたはBが起こる場合の数は $m+n$ 通り。「または」の場合。
積の法則: 事柄Aの起こり方が $m$ 通りあり、その各々について事柄Bの起こり方が $n$ 通りあるとき、AとBが続けて起こる場合の数は $m \times n$ 通り。「そして」の場合。
順列 (Permutation)
異なる \(n\) 個のものから \(r\) 個を選んで一列に並べる場合の数。
\(_nP_r = \frac{n!}{(n-r)!} = n(n-1)(n-2)\cdots(n-r+1)\)
組み合わせ (Combination)
異なる \(n\) 個のものから \(r\) 個を選ぶ(並び順は問わない)場合の数。
\(_nC_r = \frac{_nP_r}{r!} = \frac{n!}{r!(n-r)!}\)
例題
7人の生徒から3人を選んで、会長、副会長、書記を決めたい。何通りの選び方があるか?
解法 (順列)
役職が異なるため、選ぶ順番が重要になる。これは順列の問題。
\(_7P_3 = 7 \times 6 \times 5 = 210\)
答え: 210通り
7人の生徒から3人の代表を選びたい。何通りの選び方があるか?
解法 (組み合わせ)
代表3人に区別はないため、選ぶ順番は関係ない。これは組み合わせの問題。
\(_7C_3 = \frac{7 \times 6 \times 5}{3 \times 2 \times 1} = 35\)
答え: 35通り
順列(P)と組み合わせ(C) 計算ツール
異なるn個のものからr個を選んで「並べる」(順列)場合と、単に「選ぶ」(組み合わせ)場合の違いを確認しよう。
3. 特殊算:思考のツールボックス
旅人算、仕事算、鶴亀算などの「特殊算」は、中学受験で多用されるテクニックです。高校数学では直接使いませんが、これらの問題を解く過程で培われる「未知のものを文字で置く」「複数の条件を連立させて解く」「単位あたり量に着目する」といった考え方は、方程式や関数の文章題を解く上で極めて強力な武器となります。
重要公式と例題
+速さ・時間・道のり
文章題の基本。通称「み・は・じ」の関係。
道のり = 速さ \(\times\) 時間
速さ = 道のり \(\div\) 時間
時間 = 道のり \(\div\) 速さ
食塩水の問題
最も重要なのは、操作の前後で変化しない「食塩の量」に着目すること。
食塩の量 = 食塩水の量 \(\times\) \(\frac{濃度(\%)}{100}\)
仕事算
仕事全体の量を「1」とし、各人の「単位時間あたりの仕事量(仕事率)」を分数で表す。
仕事率 = \(\frac{1}{全体を終えるのにかかる時間}\)
例題
ある仕事を終えるのに、Aさん1人では10日、Bさん1人では15日かかる。この仕事を2人で協力して行うと、何日で終えることができるか?
解法
1. 仕事全体の量を「1」とする。
2. Aさん、Bさんの1日あたりの仕事率を求める。
Aさんの仕事率: \(\frac{1}{10}\)
Bさんの仕事率: \(\frac{1}{15}\)
3. 2人が協力したときの仕事率を求める。
\(\frac{1}{10} + \frac{1}{15} = \frac{3}{30} + \frac{2}{30} = \frac{5}{30} =
\frac{1}{6}\)
4. 2人で1日に全体の \(\frac{1}{6}\) の仕事をするので、全体を終えるには6日かかる。
答え: 6日
鶴亀算 ビジュアライザー
「鶴と亀が合わせて10匹、足の数の合計は28本です。鶴と亀はそれぞれ何匹?」
スライダーを動かして、条件に合う組み合わせを見つけてみよう!
食塩水混合シミュレーター
2種類の食塩水を混ぜ合わせると、濃度はどうなる?
スライダーで条件を変えて、食塩の量に着目する感覚を養おう。
食塩水 A
食塩水 B
4. 図形の探求:形から空間へ
図形の学習は、公式の暗記から始まりがちですが、その真の目的は、空間認識能力と論理的思考力を養うことにあります。算数で培った図形に対する直感的な理解を、中学・高校数学で要求される厳密な証明や解析的な手法へと昇華させることが、この分野を攻略する鍵となります。
重要公式と例題
+小学校の基本図形(面積)
正方形: 一辺 \(\times\) 一辺
長方形: 縦 \(\times\) 横
三角形: 底辺 \(\times\) 高さ \(\div\) 2
平行四辺形: 底辺 \(\times\) 高さ
台形: (上底 + 下底) \(\times\) 高さ \(\div\) 2
円: 半径 \(\times\) 半径 \(\times\) 円周率(\(\pi\))
小学校の基本図形(体積)
立方体: 一辺 \(\times\) 一辺 \(\times\) 一辺
直方体: 縦 \(\times\) 横 \(\times\) 高さ
三平方の定理 (ピタゴラスの定理)
直角三角形の3辺の長さの関係。\(c\) を斜辺とする。
\(a^2 + b^2 = c^2\)
正弦定理
三角形の外接円の半径を \(R\) とする。
\(\frac{a}{\sin A} = \frac{b}{\sin B} = \frac{c}{\sin C} = 2R\)
余弦定理
\(a^2 = b^2 + c^2 - 2bc \cos A\)
例題
\(\triangle ABC\) において、$b=3, c=5, A=120^\circ$ のとき、辺 \(a\) の長さを求めよ。
解法
1. 2辺とその間の角がわかっているので、余弦定理を用いる。
2. \(a^2 = b^2 + c^2 - 2bc \cos A\) に値を代入する。
(\(\cos 120^\circ = -1/2\) であることに注意)
\(a^2 = 3^2 + 5^2 - 2 \cdot 3 \cdot 5 \cdot \cos 120^\circ\)
\(a^2 = 9 + 25 - 30 \cdot (-\frac{1}{2})\)
\(a^2 = 34 + 15 = 49\)
\(a > 0\) より、$a = \sqrt{49} = 7$
答え: \(a=7\)
面積の分解・合成
複雑な図形も、見慣れた形に分割すれば面積を求められる。下の図形をクリックして、分割線を表示/非表示にしてみよう。
三平方の定理ビジュアライザー
直角三角形の3辺には \(a^2 + b^2 = c^2\) の関係が。なぜそうなるのか、図で確かめてみよう。
\(a^2+b^2\)
→
辺a, bの上にある正方形の面積の合計は、辺cの上の正方形の面積に等しい。
5. 規則性:パターンの発見と一般化
数が特定のルールに従って並んでいる「数列」。その規則性を見抜き、n番目の数を予測したり、全体の和を求めたりする問題は、高校数学の「数列」分野の基礎となります。算数の段階では、具体的な数字を書き出し、その差や比に注目することで、隠れたパターンを発見する観察力が重要です。この「実験し、発見し、一般化する」というプロセスは、数学的探究心の原点と言えるでしょう。
重要公式と例題
+等差数列
初項 \(a\)、公差 \(d\) の等差数列 \(\{a_n\}\)
一般項: \(a_n = a + (n-1)d\)
和: \(S_n = \frac{1}{2}n(a_1 + a_n) = \frac{1}{2}n(2a + (n-1)d)\)
等比数列
初項 \(a\)、公比 \(r\) の等比数列 \(\{a_n\}\)
一般項: \(a_n = ar^{n-1}\)
和: \(S_n = \frac{a(r^n - 1)}{r-1}\) (ただし \(r \neq 1\))
例題
初項が3、公差が4の等差数列について、第10項と、初項から第10項までの和を求めよ。
解法
1. 一般項の公式 \(a_n = a + (n-1)d\) を用いて第10項を求める。
\(a_{10} = 3 + (10-1) \times 4 = 3 + 9 \times 4 = 3 + 36 = 39\)
2. 和の公式 \(S_n = \frac{1}{2}n(a_1 + a_n)\) を用いて和を求める。
\(S_{10} = \frac{1}{2} \times 10 \times (3 + 39) = 5 \times 42 = 210\)
答え: 第10項は39, 和は210
数列クイズ
次の数列の□に入る数は何でしょう?